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2018.02.09 対談/インタビュー

QxLTalk「ブロックチェーンは本当に世界を変えるのか?」

杉井靖典氏・カレンシーポート株式会社・代表取締役CEO 

岡田隆氏・ソラミツ株式会社・共同最高経営責任者

出井伸之・クオンタムリープ株式会社・ファウンダー兼CEO

ブロックチェーンは経済や社会に大きな影響を及ぼし、これまでの中央集権的な社会を「分散的」なものに変えると言われてきました。しかし、いまのところビットコインをはじめとする仮想通貨ばかりが取り沙汰されており、どのようにブロックチェーンが社会へ導入されていくのか想像しづらいことも事実です。ブロックチェーンで世界はどのように変わるのでしょうか。実は、わたしたちが気づいていないだけでさまざまなかたちでブロックチェーンは社会に浸透し始めているようです。

2018年1月18日開催「Club100」第121回定例会より

「ブロックチェーン」とは何なのか

ブロックチェーンとは、そもそも何なのでしょうか? 「分散型」のテクノロジーであることや「P2P(ピア・トゥ・ピア)」の取引が可能になることがよく主張されていますが、このテクノロジーが具体的にどんなものなのか意外と想像しづらいのも事実でしょう。カレンシーポート代表取締役を務める杉井靖典氏によれば、ブロックチェーンとはいくつかの機能的特徴をもった「データベース」だといいます。

「参加者全員が合意したデータだけが流通する」「流通しているデータは改ざんされない」「仮にデータが破損しても自動的に復旧される」「データの流通を誰にも止められない」──こんな特徴をもつデータベースがあったとしたら、あなたは何をそこに記入したいでしょうか? 具体的なユースケースが思い浮かばないといわれることのあるブロックチェーンですが、データベースとして考えることで自然に活用方法は見えてきます。

たとえば、こうしたデータベースに「通貨」を記録しようとしたのが、「ビットコイン」のような仮想通貨でした。証券・債権・ポイント・スタンプ・クーポンなど、代表的なものを挙げるだけでもさまざまな用途があります。

「台帳」と表現されることも多いブロックチェーンですが、より具体的に言えば「UTXO」と呼ばれる帳簿の記録方法が採用されています。わたしたちが日ごろ親しんでいる「複式簿記」が自分の財産のインプット/アウトプットを管理するのに対し、UTXOは自分以外も含めた取引の連鎖を記録することが可能です。それゆえ、ブロックチェーンは監査のような取り組みにも役立つと言われるのです。

価値は何か/価値はどこにあるのか

しばしばブロックチェーンは金融に関する取り組みと結びつきの強いものとして語られますが、もちろんそれ以外の分野にも活用することは可能です。

たとえば近年注目されることの多い「スマートシティ」もブロックチェーンが役立つであろう分野のひとつでしょう。IoTが行き渡ったスマートシティでは、人と人ではなく、機械と機械が情報をやり取りするようになります。街なかを走るクルマ、交通量を観測しているロボット、信号機がそれぞれにやり取りをすることで交通状況をスムーズにすることができるというように。データのやり取りをブロックチェーン上で行うことで、安全かつ一元的に都市を管理できるようになるのです。

ブロックチェーンの導入を考えたとき、データベースの活用と考えればいいとわかっていたとしても、どんな取り組みがブロックチェーンに適しているのか迷うこともあるでしょう。そういうときは、「価値が何か」「価値がどこにあるのか」を考えることで、ブロックチェーンに落とし込みやすくなるはずです。特にある価値がどこかからどこかへ移動しているだけなのであれば、それはブロックチェーンに「向いている」取り組みだといえるでしょう。だからこそ、杉井氏はバレーパーキング(クルマの移動)やホテルの予約管理(宿泊客の移動)にもブロックチェーンは適用できるはずだと語ります。

エコシステム全体を見る広い視野

これまで見てきたようなブロックチェーンの考え方は、決して机上の空論ではありません。すでに日本においてもブロックチェーンは動き出しています。ソラミツの代表取締役、岡田隆氏によれば、同社はプライベート型のブロックチェーン「iroha」を開発し、さまざまなかたちで実証実験を行っているといいます。

たとえば「Moeka」や「Byacco」と名付けられた地域通貨は、イベント会場や大学内など限られた地域で機能するものです。特定の地域で使える地域通貨を、ブロックチェーンによる仮想通貨の技術で運用したのは同社が日本初。単に現金や電子マネー代わりに使える決済手段として機能するばかりでなく、特定のコミュニティが独自の通貨を簡単に発行することでそのコミュニティが活性化することが注目を浴びました。

地域通貨のように非常に狭い範囲ばかりでなく、前述したように、都市や国家を超えた価値のやり取りにもブロックチェーンは活用できます。インターネットが特定の何かを解決するための手段というより「インフラ」のようなものであるように、ブロックチェーンも極めて広い範囲でその真価を発揮するテクノロジーなのです。

どうすればブロックチェーンの価値を最大化できるのか。その鍵は、価値の「エコシステム」全体を見通すことにあります。さまざまな取引が入り組んでいるエコシステムのなかで、価値はどのように動いているのか。それをマクロな視点から見ることで、ブロックチェーンをより活かせるようになるはずです。

ブロックチェーンから生まれる新しいコミュニティ

【出井】革新的なテクノロジーという意味で、ブロックチェーンとインターネットはどこか通ずる部分があるように感じます。インターネットは、ある時点で一気に普及しましたよね。日本にも多くの研究者がいましたが、商用化したのはグーグルやバイドゥの方が先で、日本は国として乗り遅れてしまったような気がしています。それはいまのブロックチェーンを巡る状況とも少し似ています。インターネットとブロックチェーンはどう関係していると思いますか?

【杉井氏】わたしはインターネットも黎明期から仕事としてかかわってきましたが、ブロックチェーンはいわば「価値のインターネット」だと思います。ブロックチェーンも情報をコピーできるわけですが、インターネットとは異なり価値の所有権の管理をできる点が優れています。

【岡田氏】インターネットは、技術的には情報を改ざんできるけど、そんなことをする人はいないという前提のもとに発展しました。しかし、ブロックチェーンが生まれたことで、本当に改ざんされていない情報を流通させられるようになった。村井純先生はブロックチェーンによって「インターネットが進歩する」というような言い方をしていて、わたし自身はその表現が一番しっくりきています(この発言は2018年1月18日時点のものです)

【出井】ブロックチェーンはしばしばお金がかかわってきますよね。中国や韓国ではICOが禁止されてしまいました。国家主権の通貨との相性が悪いということなんでしょうか。

【杉井氏】国が発行する通貨とは異なり、ブロックチェーンによってつくられたような地域通貨に価値を見出す人は少ないです。でも、それを欲しがる人もなかにはいる。自分が気持ちよく過ごせるだけの金額を自分の好きなことで稼いで生きていければいいという考え方にもありますよね。そういう人にとっては、地域通貨を使って国家主権の通貨とは異なる経済圏をつくって生きていく方がハッピーなのかもしれない。

【岡田氏】フェイスブックは8年くらいかけて10億ユーザーを獲得しました。普通はユーザーを集めようとすると、いいものをつくって広告を展開する。ブロックチェーンはいいサービスをつくるだけじゃなくて、インセンティブをつくることで仲間が集まりやすい構造が生まれるんです。そうすると国を超えて文化を共有し、同じ価値観をもったコミュニティをつくれる。

【出井】ということは、ブロックチェーンを使って通貨をつくりやすくなると、あらゆる国に複数の通貨が流通するようになるんですかね。

【杉井氏】そう思いますね。ブロックチェーンはコミュニティ性の強いコインをつくりますから。これまでは、みんなが同じものを好きで、同じものを集めていた。だから誰もがフェイスブックやグーグルのように同じサービスを使う。これからは好きなものが分化していきますし、価値観も細分化してゆくでしょう。

【岡田氏】国とは異なるコミュニティに属することが増えてくるのではと。国家のように既存の組織の存在感が薄れていくなかで、色々な組織体ができてくると考えています。

【出井】国家や銀行のようにわたしたちが当たり前のように捉えていた「中央集権型」のシステムが崩れていくのは結構ワクワクするけれども、一方では価値観をどう更新していけばいいのかわからなくなってしまいそうでもあります。インターネットのようにブロックチェーンが使われるようになるまでどれくらいかかると思いますか?

【岡田氏】みんながブロックチェーンを使いこなすようになるというより、何となく便利になるというかたちで生活が変わっていくのではと考えています。ユーザーが気づいていなくても、裏側ではブロックチェーンは使われているというような。

【杉井氏】インターネットに携わるようになってから四半世紀が経ちますが、両親はわたしが何をやっているかいまだに理解していません。でも、ビットコインには興味をもっていたりする。期待を込めて言う部分もありますが、東京オリンピックまでにはみんなが使っている世界を実現したいですね。

ブロックチェーンを飼いならすために

日本の場合、特に金融領域においては既存の銀行がもっているシステムが非常に堅牢なため、ブロックチェーンによる改革が遅れてしまっているともいえます。さらには日本円が人気であることもブロックチェーンの導入が遅れてしまった一因でしょう。

2017年は仮想通貨バブルの年だったといわれており、日本でも多くの仮想通貨が話題になりました。人々がブロックチェーンに親しむという点では日本が変わるきっかけとなりうる年だったといえるかもしれませんが、それらは投機対象として扱われることも多く、新たなビジネスモデルを生んでいるとはいいがたい部分があります。

では、日本は「ブロックチェーン後進国」なのでしょうか? 実はそういうわけでもないのです。日本は世界で最初に仮想通貨に関するロビー活動が始まった国であり、法制度が仮想通貨に間に合った数少ない国のひとつでもあります。技術面を考えてみても、日本にはブロックチェーンの基礎技術を開発している企業が多く、ブロックチェーンそのものを制作している会社だけでも10社ほど。さらに日本にはコアデベロッパーも多く住んでいるといわれています。

さまざまなブロックチェーンが林立するなかで、現在注目されているのは複数のブロックチェーンを相補的に接続する取り組みです。現在日本にある10社のブロックチェーンを接続する計画も進んでおり、単一のブロックチェーンを使うのではなく適材適所にブロックチェーンを使い分けることを目指しています。たとえば、とある部分にはシンプルで高速なブロックチェーンを使い、また別の部分にはより複雑な処理に向いているブロックチェーンを使えるというように。

もちろん、インターネット黎明期の日本を思い返してみればわかるように、テクノロジーをもっていれば世界をリードできるわけではありません。きちんとテクノロジーを活用するためには新たなプラットフォームやビジネスモデルをつくる必要があります。グローバルに進出していくためには、国のサポートが必要になることもあるでしょう。きたるべきブロックチェーンの世界のために、いまこそ日本は動き出すべきなのです。

仮想通貨の話題が世を賑わしたことでブロックチェーンは金融を変革するものと捉えられがちですが、クオンタムリープのClub100ではブロックチェーンの真価をさまざまな産業で発揮すべく、今後もより深く議論を重ねていきます。

TEXT by Shunta ISHIGAMI(TBK LLC.)

Quantum Leaps Corporation