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2018.08.18 インタビュー

週刊エコノミスト【特集】リーマン・ショック10年 / 私のリーマン・ショック、取材受けました

週刊エコノミスト 8月14日号 

【特集】リーマン・ショック10年 / 私のリーマン・ショック の取材を、弊社代表・出井が受けました。

■リーマン・ショック10年 / 私のリーマン・ショック「製造業没落はリーマンとは無関係」

出井伸之(ソニー元会長・社長)

「日本の製造業はリーマン・ショックで競争力を失った」という人がいるが、全く関係ない。日本の製造業が競争力を失ったのは、その10年前、すなわち1997年のアジア通貨危機の時だ。

 韓国の通貨ウォンが日本円に対し2分の1にまで急落。サムスン電子などの韓国勢は輸出競争力が格段に増し、資本集約型のビジネスモデルに切り替えた。

 資本集約型の特徴は、生産すればするほど、コストが下がる「収穫逓増の法則」が働くことだ。サムスンは安い資本コストで半導体に徹底的に投資し、圧倒的な世界シェアをとった。

 一方、日本は旧来の労働集約型の組み立てモデルのままだった。その結果、コストで勝てず半導体メモリーメーカーは全部無くなった。このショックは今でも忘れられない。

 その間、米国はインターネット、デジタルエコノミーの道を選び、フェイスブック、アマゾン、グーグルなどの巨大プラットフォーマーが誕生した。私は2000年の森喜朗政権の時に、政府のIT戦略会議議長を務め、インターネットのインフラ整備を進めた。

 だが、著作権法の壁で検索エンジンのサーバーを日本国内に置くことができず、一番データを取得できるものを国外に置かざるを得なかった。このため日本は、デジタルエコノミーの波には全く乗れなかった。

ノスタルジーを捨てよ

 この結果、日本は製造業で韓国と中国に、デジタルエコノミーで米国の後塵(こうじん)を拝してしまった。

 日本はいいかげん、旧来型のものづくりへのノスタルジーをやめるべきだ。今や電機部品を一番使っているのは自動車産業だ。しかしデジタル時代になれば、自動車に使う部品もどんどん減ってくる。自動車が半導体とバッテリーだけでできるようになると、テレビがもうからなくなったように1台当たりの利益率は下がる。あと3〜5年でそういう時代が来る。その時に備え、ものづくりとデジタルの融合を進めるべきだ。

 ブロックチェーン、5G(超高速通信)、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの新たな技術の波も押し寄せている。ブロックチェーンの分散型技術により、巨大なプラットフォーマーにも「時代遅れの時代」が間もなく到来する。実際、欧州ではドイツ・ベルリンのように都市レベルで分散型経済を目指す動きが出ている。中国では、「OMO(Online Merge Offline、ネットの実経済への進出)」がキーワードになっている。こうした経済が発展するのに数年しか掛からない。

 だから私が今、政府の人にお願いしているのが、新しいビジネスチャンスが到来したときに、それにふさわしい法整備をすることだ。今の日本では、例えば保有する仮想通貨をポイントサービスに変えようとすると、税金が55%掛かる。これでは、志のある若い人はスイスやシンガポールに移住してしまう。

 技術の変化が産業を変えていくことを、もっと理解していかないといけない。日本は新しいルールを決めて、その下にイノベーションを起こし、新しい産業を興す必要がある。そういうチャンスを作れば、世界で一番優秀な人が日本に集まるが、そうでなければインターネットで出遅れた轍(てつ)を踏むことになる。

 今後、アジアが世界の中心になるのは間違いない。日本の強みは、その急成長するアジアの中にあることだ。ビジネスの大きさは距離の近さに比例する。その際に強大な中国を怖がるだけでなく、日本はインドを育てないといけない。インドと日本が結びつくと、アジアの中で勢力のバランスが取れるからだ。

◇いでい・のぶゆき
 1937年生まれ、60年ソニー入社。88年ホームビデオ事業本部長、89年取締役を経て、95年社長、2000年会長を歴任。その間、00年に政府のIT戦略会議議長を務める。06年にクオンタムリープを設立し代表に就任。

<記事はこちらから>
http://topics.smt.docomo.ne.jp/article/economist/business/economist-20180807181414703