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2020.01.06 出演/登壇

ベンチャーに、もっとアドベンチャーを。 『アドベンチャービレッジ』構想発表レポート

『アドベンチャービレッジ』構想発表レポート
Giverの精神で挑戦者が湧き出る社会をつくり、東京ベイエリアをアジアのイノベーションハブに
凝り固まった日本の課題を、国内外のゲスト登壇者が徹底議論!

 

クオンタムリープ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:出井伸之)は、11月29日、一般社団法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ(本社:東京都港区、代表理事:出井伸之)を運営主体としたスタートアップ企業の支援プロジェクト『アドベンチャービレッジ』のローンチイベントを虎ノ門ヒルズフォーラム(東京・港区)にて開催しました。当日は、第一部では、主にアドベンチャービレッジ発足の背景や概要について話し、第二部では各業界のキーマンが登壇しパネルディスカッションを交えるなど、これからの日本の社会の在り方について熱く語り合いました。

 

■『アドベンチャービレッジ』発足への思い

日本が経験した三つの敗戦

冒頭の挨拶で、クオンタムリープ株式会社 代表取締役 ファウンダー&CEO 出井伸之は、アドベンチャービレッジ発足への思いを語りました。

「私は三つの日本の敗戦を経験しています。一つは第二次世界大戦、二つ目はプラザ合意、そして三つ目はIT革命の敗北です。日本は戦後、新しい技術を手にし、多くのベンチャー企業が誕生しました。ソニーならトランジスタ、ホンダなら車など、世界の工場と言われるほどダイナミックでした。四季に例えると、春から夏の時代でした。その後日本は、プラザ合意の通貨戦争で敗北し、円高となったため輸入や大型企業の買収など海外に投資するようになり、ガラパゴス化していきました。やがて、1990年のバブルの崩壊で日本経済は崩壊し、それ以降“失われた30年”として社会全体が固まっていきました。その間、アメリカはIT革命を発表し、情報スーパーハイウェイ構想を打ち出すなど積極的にITへ投資し、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のようなプラットフォーマーが誕生しました。中国では、百度、アリババ、テンセントが出てきましたが、日本には誕生しませんでした。気がついたら日本は三つ目の敗戦を味わうことになっていました。それがIT敗戦です。日本はなぜIT革命の波に乗れなかったのか、今でも非常に悔しく思っています」

チャンスは新しい技術とアジアの成長、そしてあるべき日本の社会像

「現在、日本はまだ長い冬の時代です。この時期にこそ、来る春に向けて種を植えるべきだと思うのです。ベンチャーも、大企業も、ベンチャーキャピタルも、1社1社個々に動くのではなく、つながりながら助け合っていくことが必要だと思っています。

これからの日本には、二つのチャンスがあると思っています。一つは、5GやAIやブロックチェーンなど新しい技術を活用した新しいビジネスモデルが台頭してくること。もう一つは、中国、インド、インドネシアなど、アジア諸国が成長していくこと。世界の経済の軸が、欧米中心の大西洋から、アジア中心の太平洋に移行しています。日本もアジアの一国です。こういった好環境の中で、冬の時代から春への移行を実行させるには、日本の社会を変えなくてはいけないと思っています。湧き出るように多くのベンチャーが創出される社会、大企業が全く新しい発想を取り入れながら変革していく社会、デジタルトランスフォーメーション化される社会、これらが重要だと強く思うのです」

It takes a village to raise a child. 子どもが生まれたら村全体で育てよう

「アドベンチャービレッジには、アフリカの古いことわざである「It takes a village to raise a child. (子どもが生まれたら村全体で育てよう)」という精神があります。ベンチャーを子ども、村を社会として考えてみてください。こういった社会が日本で育つには、10年ぐらいかかると思っています。私たちは、まず民間からムーブメントを起こし、社会全体に働きかけていくつもりです。アドベンチャービレッジの目標として、東京湾を中心としたベイエリアをアジアのイノベーションハブにするという思いがあります。東京ベイエリアには、世界中から情報や人も集まるし、新しいものを創り出す力もありますので、非常に大きなビジネスチャンスがあると思うのです。アドベンチャービレッジがどういう社会を目指し活動していくのかを皆さんに知っていただき、挑戦者、ギバー(人に惜しみなく与える人)つまり応援者、などさまざまな形で、この大きなムーブメントに関わっていただきたいと思っています」

 

■ベンチャーの成長を支える『ギブ アンド ギブン』の精神

次に、アドベンチャービレッジの主旨に賛同された一橋大学 楠木建教授がスピーチをしました。楠木氏は、自身が監訳した、ペンシルバニア大学教授で組織心理学者のアダム・グランド氏の著書『ギブ アンド テイク〜与える人こそ成功する時代〜』を解説しながら、会場に呼びかけました。「アダム・グランドは人間のタイプをGiver(ギバー)、Taker(テイカー)、Matcher(マッチャー)と三つに分けています。多くの人が考えているギブ アンド テイクは、マッチャーのことを指しているのです。テイカーは何でも取っていく人に解釈されがちですが、実は、先にテイクという目的があり、その手段としてギブをする、このような人をテイカーと呼びます。一方、真逆にいるのがギバーです。ギバーは最終的にテイクをすることはありますが、与える時点では見返り(つまりテイク)を目的としていません。結果、振り返った時に大きな恩恵があるかもしれない。つまり“ギブ アンド ギブン”なのです。それがギバーの考え方で、初めから計算をしていません。では、なぜ人はギバーになるのでしょうか。それはギブする対象が、面白く意義あるものだと思うからです。実現したらどうなるのか見てみたい、その思いが、ギバーがギブする動機です。皆さんも “ギブ アンド ギブン“の精神を持って、アドベンチャービレッジに関わっていただければと思います」

 

■アドベンチャービレッジは、日本と海外のエコシステムビルダー同士がつながる“場”

続いて、クオンタムリープ株式会社 執行役社長 COO 中村智広が、アドベンチャービレッジの構想の概要について話しました。

アドベンチャービレッジは、東京ベイエリアを世界有数のイノベーションハブの一つにするという目標の下、挑戦者や冒険者があふれ出るような社会をつくるムーブメントを起こす活動をしていきます。その活動は主に、①エコシステムビルダー同士がつながる「場」の醸成、②海外ネットワークの構築・提供、③大規模イベントによる社会運動化の加速、これら3つの軸があります。中村COOは「新しいビジネスモデルや新規事業を創出しようとする人、挑戦しようとする人、エコシステムを作ろうとする人、これら全てをエコシステムビルダーと広く定義しています。また、投資家、ベンチャーキャピタル、コンサルティング、弁護士、会計士の皆さまもエコシステムビルダーとして関わっていただければと思っています」と、新しいことに挑戦する人だけでなく、惜しみなく与える人(ギバー)も一体となって、新しい産業の創出に向け社会を動かしていくことを宣言しました。さらに、今年の10月に「日仏スタートアップ・クリエイティビティ・チャレンジ」というプログラムをスタートさせたことにも触れ、「スタートアップ育成に力を入れているフランスと日本で、スタートアップが創出される好環境を整えることを目的とした3カ年プロジェクトをスタートさせました。他に、北京・香港・ソウル・シンガポール・インドなど世界数カ国の拠点においても、日本と海外のエコシステムビルダー同士をつなぐ取り組みを進めています。さらに、日本発の次世代の事業や社会の新しい動きや流れなど、日本のメッセージを世界に発信する場としてSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)のような、大規模イベントも行っていきたいと思います。そしてゆくゆくは、ギバーの精神を持った企業から個人までもが集まり、社会運動となるよう進めていくため、大企業の人もメンターとしてアドベンチャービレッジの活動に参加していく仕組みをつくる予定です。」と、構想を語りました」

※アドベンチャービレッジの詳細は、こちらのプレスリリースをご覧ください。

 

■クオンタムリープの活動「アクティブシンクタンク」「国内外のエコシステムビルダーとの連携」

クオンタムリープ(株)は、エコシステムビルダーの一つとして活動をしていきます。活動の大きな特徴の一つとして、学者や経営者などで構成する「アクティブシンクタンク」を設立します。アクティブシンクタンクでは、5Gや人工知能(AI)やブロックチェーンなどの新しい技術が進歩して起こるパラダイムシフトに向け、技術を軸にした新しい事業モデルを創出していきます。そして、国内外のエコシステムビルダーとの連携も行います。中村COOは「日本のスタートアップ企業は、海外のエコシステムビルダーやオーナーと事業会社として連携することで、海外展開の確度をあげていくことが非常に大切です。しかし、かなり細かいディティールにわたって連携を進めなければならず、容易ではありません。そのためには、スタートアップ企業の得意分野を成長させつつ、次の段階でエコシステムビルダーと連携し、リレーのようにバトンタッチをする場としてアドベンチャービレッジを活用できるようにしていきます。」と語りました。

 

■ジェリー・ヤン氏登壇。海外からも注目を集める日本のスタートアップ

海外より、ヤフー!共同創業者 AME Cloud Ventures Founding Partner ジェリー・ヤン氏と、フランスのベンチャーキャピタル ワンラグタイムのファウンダー CEOのステファニー・ホスピタル氏がスピーチをしました。ジェリー・ヤン氏は「アドベンチャービレッジが成功するには、グローバルな視点とローカルのスタートアップを育成することが必要です。例えば、今ではグローバルに展開するAirbnbやUberはローカルビジネスからスタートしました。日本のマーケットは他国より小さくローカルビジネスをサポートできないと考える人もいますが、似た境遇の他国では成功した例もあります。日本の社会で重要なのは、新しい技術を活用したイノベーションができるという強い信念を、政府や企業や学会の中でも持つことだと思います。スタートアップ企業が成長するには、努力と忍耐が必要です。アメリカや中国では、スタートアップ企業が市場に出て成功を収めるまで10年かかるといわれるほど、成功には長期のコミットメントが必要です。だからこそアドベンチャービレッジのような存在は重要になってくると思います」と語りました。

続いてステファニー・ホスピタル氏は、「フランスでは、長い間、大企業かアメリカで働くことが良いキャリアとされていましたが、2020年の新規雇用データでは全体の約10%がスタートアップ企業でした。フランスがこのような状況になるまで15年かかりましたが、日本がフランスのようにテックカルチャーを生み出すためには四つの柱が必要だと思います。第一の柱は教育です。特にグローバルにビジネスを育てていくための英語力は重要です。第二の柱は、規制の緩和です。国家または政府が経済を解放し法制度を見直し国際的な労働力や人材に投資できるようサポートする必要があります。第三の柱はファイナンスです。大企業やベンチャーキャピタルが、パートナーとしてスタートアップ企業をサポートすることが大事です。そして第四の柱は、変革し世界にインパクトをもたらすエネルギーやモチベーションです。そのためにはイノベーションを起こし社会を変えようとするアントレプレナー精神が重要です。そして女性の活躍などのダイバーシティも大切になってきます。スタートアップ大国になることは、自国を国際的に大きく発展させることにつながります。インスピレーションあふれ活力のある出井さんに、多くの方が続いていってくださればと思います」とスピーチしました。

 

■基調パネルディスカッション『新しい事業モデルの創出とギバーの役割』

基調パネルディスカッションは、『新しい事業モデルの創出とギバーの役割』をテーマに、フォーブスジャパン 副編集長 谷本有香氏をモデレーターに迎え、慶応義塾大学 環境情報学部 教授でヤフー株式会社 CSO 安宅和人氏、マネックスグループ株式会社 取締役会長 兼 代表執行役社長CEO松本大氏、国連責任投資原則(PRI) 理事 兼 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) CIO 水野弘道氏をゲストにお招きして、クオンタムリープ株式会社 代表取締役 ファウンダー&CEO出井伸之が共に登壇しました。

谷本氏:オープンイノベーションは少しずつ進んでいるが、全ての力が結集しているとはまだ言い難い状況。ギバーから見て、今何が起こっているのか?また、どんな課題があるのか?

松本氏:日本は他の国と比べ、いいスタートアップを見つけて、メンタリング、ファイナンスなどを提供して育て上げようとする人が圧倒的に少ない。資金をギブするベンチャーキャピタルなどは増えてきたが、その周りのクラスターがしっかりすると、スタートアップがもっと育つ環境になると思う。

水野氏:実は、ギバーやリターンを期待せず自分の時間やノウハウを寄付するのは、資産運用業界の常識にマッチしない。しかし、企業や個人の社会活動が将来的にリターンにつながらないと思っても、結果的に企業の価値につながっていることが、実際頻繁に観察されている。この状況からみて、ギバーとテイカー両側の役割を果たすべきではないかと思っている。この曖昧さが重要ではないだろうか。

安宅氏:ある年齢層になると坂本龍馬を目指す人は多いが、勝海舟のようにいい人を認めてつなげて出資するという人が圧倒的に足りない。それは企業レベルでも同じことがいえる。大会社というのは次々に会社を作ることで生きながらえるものであって、大会社は少なくとも50~100は作ることを目指さないと社会で期待される役を十分になしていけない。何も生み出さず自分たちだけが生き残ろうとしている大会社はもう滅びに踏み込んでいる。根本的にこういう新しいものを生み出す人も企業も足りていないと感じる。また、日本の大学への寄付は、東大を例に取ると94%が企業からで卒業生は3%。一方、アメリカはYale大を例に取ると75%が個人寄付だ。大学でよい時間を過ごした卒業生による”愛の循環”が起きている。日本でも、こういった愛の循環を生み出していく必要がある。

谷本氏:前々から連携はしていこうと言われてきたが、今までなぜうまくいかなかったのか?どうしたらいいのか?また、日本の大きなエコシステムを作るのに何が必要か?

松本氏:スタートアップを育てるのに必要なのはお金だけではない。クラスターを構成させるためには、さまざまな方法でギブしていくべきだと思う。プロボノとして、会計士・弁護士・起業家は経験を、マーケッターはマーケティング手法を、大企業であればネットワークなど、それぞれ提供できるものはあるが、日本はその種類が圧倒的に少ない。アドベンチャービレッジはさまざまなものが集まる“クラスター”を作っていくのが重要ではないだろうか。

水野氏: 出井さんが新事業創出には挑戦者とギバーと挑戦価値を認める社会が不可欠だと言ったが、僕は挑戦の価値を認める資本市場が必要だと思う。日本の場合、企業やベンチャーの挑戦の評価がアメリカより明らかに低い。特にオプションバリューを評価できる資本市場にする努力は必要だと常々思っている。もう一つは、ギバーに時間やノウ ハウなどをギブしてもらうためには、それによって何かよいことが起きると思わせることが必要だと思う。例えば、SDGsのような社会課題を解決するビジネスモデルだとわかるとギブする意欲も強く湧くだろう。僕は個人としてベンチャーキャピタルやベンチャーと話す時は、どういうような社会的価値を生み出したいのかを聞き、その価値が合えばギバーになろうと思っている。

安宅氏:まず提言したいのは、世界をアップデートする課題の明確化。地球温暖化の影響でこのままだと地球はもたない。気象庁の予測通り風速90メートルの台風が来ると、街も家も全て作り直さなくてはいけない。我々は世界中でこのようなディープな問題を抱えている。この変化に対応することが巨大な産業になるのは確実で、すぐに取り組むべきだ。次に、“スーパーチーム”をつくること。純血主義、日本人だけ、男だけという発想を今すぐ捨てるべきだ。日本は多様性を生かせていない。そして、重要なのが、変人密度の問題。アウトライヤー的な才能をどうやって支えるのかをきちんと考えるべき。小学校を3カ月で中退して、その後、世の中を変えたエジソンのような“変態的”偉人をどうやって見つけ育てるのかが問われている。最後に、海外を見て回ること。日本の常識は世界の非常識、さまざまな意味で根底からズレている。こんな国どこにあるんだと思うほどだ。我々が対応、検討すべき課題は山積みだ。

水野氏:気候変動など確実に起こる問題や社会課題に取り組むベンチャーがもっと出てきてもいいと思う。そういったことに資金が流れるようになると思うし、グローバルでは完全にその方向性だ。また、問題の解決策を見いだしたのに悩んだあげく元に戻るという堂々巡りはせず、違う着地点を見つけながらでも前へ進むことが大切だと思う。

谷本氏:最後に皆さんがギバーとしてワクワクする領域とは?

安宅氏:このままいくと日本だけではなく世界的に、未来は都市集中型になり、都市以外の地域は捨てられるのがほぼ確実だ。僕自身は次世代のために自然とともに豊かに生きられるオプションを残したいと思っている。現在のテクノロジーを使い倒して、普通にはソリューションがない土地で、経済的にメイクセンスする空間を作れないかという「風の谷」プロジェクトに一番情熱を傾けている。そのためインフラの構築、メンテナンスのコストを劇的に下げなければいけないとともに、都市の利便と多目的化に対抗する面白さを作らないといけない。単なる自動化では解決しないというのが僕の見解で、このプロジェクトに幅広い人材を集めている。

松本氏:私がワクワクすることはたかが知れているが、私の知らないこと、思いもつかない、創造できないようなことがいいと思っている。いろんなところに可能性があるし、みんなで応援していくのがいいのではないかと思う。

水野氏:新しいテクノロジーが進歩すると、それによって雇用が失われるなどマイナスなことを思うか、技術の活用で素晴らしい社会がくるとポジティブなことを思うかと、よく議論されるが、ポジティブな発想をするワクワクがとても重要で、そういう精神状態でありたいと思っている。また、気候変動については、世界中の子どもたちが行っているストを見て、彼らが「Climate Justice」と出した瞬間、私はワクワクした。次世代は、正義というのを求めていて、この若い人たちの怒りのパワーに、大人としてどう対応するかが重要だと思った。

出井氏:私がやりたいのはアドベンチャービレッジ。今、日本は冬の時代だから種をまかないと春にならない。僕は、冒険心を持って相談を受けた人やベンチャーが伸びていくのを見るのが一番ワクワクするしうれしい。伸びるベンチャーは、バランスのとれているメンバーがそろい、基本的には手がかからない。私は、これからもっとたくさんのスタートアップと出会いたいと思う。

 

■特別パネルディスカッション『アドベンチャービレッジが創出する挑戦者像を描く』

続いて、『アドベンチャービレッジが創出する挑戦者像を描く』をテーマに特別パネルディスカッションを行いました。モデレーターに、株式会社MM総研 代表取締役所長で元日本経済新聞社 論説委員 関口和一氏を迎え、アクセンチュア株式会社 執行役員 デジタルコンサルティング本部 統括本部長 立花良範氏、寺田倉庫株式会社 代表取締役社長 CEO 寺田航平氏、株式会社みずほ銀行 執行役員 イノベーション企業支援部長 大櫃直人氏、株式会社アルベルト 代表取締役社長 兼 CEO 松本壮志氏で議論を交わしました。

関口氏:今、日本が抱える問題とは何か。その課題を踏まえた上で、日本のベンチャーをどうすればよいか? 技術とリアルを結び付けて新しい事業を生み出すチャンスの時期なのに、日本では動きがなかなか見えないが、どこを狙いどんな仕組みをつくればベンチャーは成功するのか?

立花氏:戦後、製造業で活躍してきた日本企業が、今後グローバルで活躍する企業を誕生させられるのか、超少子高齢化で地方をどうするのかなど、課題はたくさんある。今までとこれからの大きな違いは、レガシーが厳然とある状態でのモデルチェンジだ。レガシーを作り上げた大企業がいかに思い切って変化できるのかが重要な課題だと思っている。それにはベンチャーの力も必要だ。特に日本にアドバンス面のあるロボットAIの分野では、スタートアップがもっと出てきてほしいし、我々もフォーカスしたい。今後人口は減少していくためロボットやAIを生かす環境もある。あとはこの分野に関わる人の数だと思う。技術者以外にも、自治体や、現場を変えていくための解決となる人が足りない。また、大企業が人材を輩出するプールになり、経験を持った人がもう一度勉強しスタートアップにジョインする、そういった流動的な環境が作れないかと考えている。

寺田氏:大企業がどう変革するのか、人材の流動化が最大のテーマだと思っている。今の日本で人材の流用が圧倒的に進まないのは、大半の人が一つの島(会社)の中で一生を過ごしていくため、人間として発展が少ないからではないかと思っている。それが、ベンチャー企業への人の流動化が進まない一つの大きな要因だと思う。壁が壊れ新たな才能のある人が飛び立ち、大企業を圧迫し切磋琢磨するという成長サイクルにもっていけるかどうかが分かれ目だ。日本の本当の強みを考えたとき、ものづくり以外ではデータの利活用が考えられるが、どの産業も上位3社のデータを統合しようとすると、各社規格が違うためデータの連携ができないという現実がある。今後データを利活用するためのルールづくりなどが開発されると、新たなイノベーションのチャンスがあると思う。大企業が本当の意味でのリソースを集中させれば、ベンチャーが追随しオープン化が進むという流れができる。そうすれば日本も他の国に対抗できるようになると思う。

大櫃氏:チャレンジやリスクを取ることを賞賛するような風土がないのが問題。戦後は画一的に動ける人を育てるのが教育上正しかったが、これだけの多様性や新しい発想を求められる時代に入ってその教育が通用しなくなっているのではないか。シリコンバレーも中国も日本も、後ろにtoCで戦える大きなマーケットがあるのでIT系の企業が育つ。一方でこれからのベンチャーは、イスラエルやフランスのようにtoCの大きなマーケットがなく、リアルテックで戦わざるを得ない国とあえて組んでみるのもよいと思う。日本に足りないのは、ベンチャーへのリスクマネー。日本が得意とするものづくりには多額の資金が必要だが、これをリクスマネーとして長いスパンで供給していく仕組みが、日本ではVCにも銀行にもない。こういったことが阻害となり挑戦者を生む土壌ができないのではないかと思う。

松本氏:この10年でスタートアップへのファイナンス面は大きく多様化し、スタートアップの数は増えてきた。次に不足しているのは並走するパートナーだと思う。戦略立案フェーズで並走する・相談に乗るといったパートナーシップをスタートアップ企業はなかなか持てない。そこに対し、アドベンチャービレッジを通じて側面支援をすることが、今後の成長に必要不可欠ではないか。これからは、新しい技術の活用と浸透が重要になってくる。大企業の顕在化したニーズに対しベンチャー企業が受託する形だと他国に遅れをとってしまうため、今後潜在的なニーズをベンチャーサイドが仮説・検証して掘り下げていく力が必要だ。そのためにはコンサルティングファームや違う形のアライアンス形態など、デジタルトランフォーメーションを集合体で作るということが非常に大事なアクションになる。

関口氏:アドベンチャービレッジの成功の秘訣は?

大櫃氏:成功者をたくさん生むことが大事だと思う。成功者が生まれると周囲もやってみようと思う。ベテラン経営者など知見のある人が、スタートアップで起業したチャレンジャーをサポートしていくことが重要。その中で成功者が生まれ、それに追随していく人が生まれていく、このような循環を作っていくことが大切だ。

寺田氏:日本は、箱物をつくるのは得意だがソフトをつくるのが苦手な傾向にある。海外では、スタートアップを支援するさまざまな組織がありそれを機能させるためのソフトがある。リアルな場である必要はないが、いつ行っても誰かがいるという場をどこまで作り上げられるか、その場をつくるためのパワーをいかに集められるか、これが全てだと思う。アドベンチャービレッジは、そのためにどんどん成功者を生み巻き込み、大企業が本気になることが大事になってくると思う。

立花氏:もちろん、場としての魅力や成功モデルを作ることが成功へのカギだと思うが、本当に日本の将来を考えたときに生産性を高めていくべきなのは、大企業でもスタートアップでもなく、中小企業ではないかと思う。現行で頑張っている中小企業やモデルケースになる層を取り込むのも、ムーブメントを起こす重要なポイントになると思う。

松本氏:成功体験ではなく失敗体験をどれだけ聞けるかが、大きなアセットになると思う。アドベンチャービレッジのインサイドの人たちは心をオープンにしてできる限り話を聞き、失敗談を情報開示していくことが重要な因子になるのではないか。

関口氏:現在、ベンチャーブームは日本だけでなく世界的現象となっている。シリコンバレーに進出しベンチャーと組んで新しいものを創ろうという日本の企業は、ITバブルの時660社ぐらいだったのが、今は800社を超えている。これからは、国内だけでなく海外のベンチャーにも目を配りながら、新しいエコシステムを創出することができれば理想だ。アドベンチャービレッジはその一翼を担う存在としてとても大きいと思う。

 

■各界より注目を集めるアドベンチャービレッジ

パネルディスカッションの後は、各界から賛同スピーチをいただきました。

ONE JAPAN 共同代表 山本将裕氏

ONE JAPANは、大企業に属する思いを持って実践する若手や中堅が、個ではなく有志団体として集まって活動しています。イノベーションを社会実装するのに、大企業だからこそできることもあります。ONE JAPANの目指す世界もアドベンチャービレッジと同じ「挑戦の文化を作る」ことです。カルチャーと事業と人、この三つを回していくことによって、大企業は変わっていきます。ぜひこれから一緒にできればと思います。

 

Creww株式会社 代表取締役 伊地知天氏

「大挑戦時代をつくる」をミッションに掲げスタートアップエコシステムの構築をしています。日本ではキープレイヤーが大企業にあるため、欧米に比べてスタートアップが弱いという現実があります。大企業はノウハウを自社で閉ざさず経営資源を開放し、スタートアップが活用方法を提案しさらにデジタルテクノロジーを掛け合わせる、このように大企業とスタートアップのコミュニティを近づけ補完関係となり協業し実現性のあるオープンイノベーションを行うと、新しい市場の創造の可能性が出てきます。アドベンチャービレッジと共に、チャレンジできるイノベーティブな環境を構築していきたいと思います。

内閣府 政策統括官付 イノベーション創出環境担当 企画官 石井芳明氏

グローバルなイノベーション創出競争の中で日本は大事な局面を迎えており、オープンイノベーションの推進に政府は力を入れています。特に機動力があり未知の市場にチャレンジできるスタートアップが大企業とつながることが大事です。日本では、5年前の5倍の出資、大型の資金調達やM&Aの成立、テック系のスタートアップの増加など、よい環境にはなってきていますが、世界ではもっと大きな動きが起こっています。日本のスタートアップやオープンイノベーションの創出をさらに加速させないとアメリカ・中国・アジア諸国のスピードにはついていけません。そのためには、社会課題をスタートアップと大企業が連携し解決するなど、官民そして大学が動いて、具体的な動きを起こしていかなくてはなりません。特に大事なのはトップの覚悟と現場の熱意、そして継続する仕組みです。今こそ、多くの人を巻き込みムーブメントを起こすことが大事です。アドベンチャービレッジは民間の重要なプレイヤーの集まる取り組みであり、政府も連携させていただきたいと思っています。みんなで、行動することで、日本のイノベーションを盛り上げていきましょう。

一般社団法人フューチャーセンターアライアンスジャパン 代表理事 多摩大学大学院 教授 紺野登氏

これからの経営や産業にとっては、単にモノを造って売るだけではない、顧客価値を提供するエコシステム(生態系)での協創が鍵となるでしょう。もはや企業一社や大学単体ではイノベーションは起きません。コラボしただけでも同じです。一方、経済効率のみ追い求める今の日本の状況では、組織文化的にも内部の力だけでの協業は難しい。そこで、イノベーションをけん引していくために「プルーラルセクター(多元的セクター)」のような、単に企業間で協力するのではない、多様な関係者をつないで産業を創出していく価値創造の「場」が必須です。そこで、アドベンチャービレッジのような存在は大きな役割を果たすでしょう。今後とも協力の機会を期待します。

フリービット株式会社 代表取締役会長 石田宏樹氏

長年、「出井チルドレン」として、出井さんにアドバイスをいただいていますが、出井さんの素晴らしい先見性やビジョンには、いつの時にも驚かされます。このアドベンチャービレッジも先見性を持って始められたのだと思います。社会的ムーブメントを起こすには、公衆の前で裸で踊り始めた人に対する、最初のフォロワーが大変重要になってきます。最初のフォロワーが、裸で踊り始めた人をリーダーに変えます。裸で踊り始めた人にはついていけないが最初のフォロワーに続いて、2人3人…と続き、やがて大きなうねりとなり社会運動に拡大していくのです。皆さんにも、自分はリーダーになるのかフォロワーになるのかということを考えながら、参加していただきたいと思います。私もフォロワーとして付いて行きます。

 

クオンタムリープ株式会社 代表取締役、一般社団法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ 代表理事 出井伸之

アドベンチャービレッジという言葉を生み出し、この構想を創るのに約1年半かかりましたが、これまで多くの人と対話し、日本や海外にも同じような志の人がたくさんいることがわかりました。本日登壇してくださった方、ここに集まってくださったも同じ志を持っていると思います。‟失敗を恐れず冒険していく“、この心意気は、日本を元気にし、冬から春の時代に移行していく大きなポイントだと思います。アドベンチャービレッジは、短期間での結果を求めるのではなく、10年くらいの時間をかけながら、日本をアジアのイノベーションハブにつくり上げていきたいと思っています。皆さんも、アドベンチャービレッジと一緒にムーブメントを起こしていきましょう!

 


 

一般社団法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブ(AII)

次世代を担う若手人材を主な対象に、アジアの持続可能な成長と共通課題の解決に向けて新しい社会的価値を提供する事業を生み出すための異業種、産官学、営利・非営利の多様な人材のプラットフォームづくりや国際会議を行い、アジア発のイノベーション創出に寄与することを目的とするNPO法人。代表理事:出井伸之

 

出井 伸之(いでい・のぶゆき)

【経歴】1937年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1960年ソニー株式会社入社。オーディオ事業部長、ホームビデオ事業本部長、代表取締役社長などを経て、2000年代表取締役会長兼グループCEOに就任。2005年6月に代表取締役会長兼グループCEOを退任後、2006年9 月にクオンタムリープ株式会社を設立。現在は、クオンタムリープ株式会社のファウンダー&CEOとして、大企業変革支援やベンチャー企業の育成支援活動を行う。また、一般社団法人アジア・イノベーターズ・イニシアティブの代表理事として、『アドベンチャービレッジ』の活動も行う。