日刊工業新聞 深層断面/VCつなぐ支援のバトン 「アドベンチャービレッジ」始動 記事掲載されました
日刊工業新聞 12月25日 掲載されました。
■深層断面/VCつなぐ支援のバトン 「アドベンチャービレッジ」始動
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00542814?isReadConfirmed=true
スタートアップ→成長、長い目で
世界で活躍するスタートアップの創出や企業変革に向けた新たな活動「アドベンチャービレッジ」が始動した。元ソニー社長でクオンタムリープ代表取締役の出井伸之氏が長年構想を温めてきた。ベンチャーキャピタル(VC)などの支援者同士が連携することで、新興企業を長い目で大きく育てる。日本には何より挑戦への“熱気”が必要だ。(梶原洵子)
「スタートアップには忍耐がいる。世界で成功するには10年かかる」。ヤフー共同創業者でベンチャー投資家のジェリー・ヤン氏は自身の経験を踏まえ、今後アドベンチャービレッジから出てくる起業家らの奮闘への期待を語った。
【環境作り】
日本も世界各国と同様に何度目かのベンチャーブームを迎えているが、評価額10億ドル以上のユニコーン企業は少ない。そもそもベンチャーは失敗して当たり前の世界。多くの失敗の中から巨大企業が生まれるには、起業家らが粘り強く挑戦を続けられる環境が必要になる。この環境は米国では長年ベンチャーを育んだ文化によって、中国では政府などによる強力な推進施策によって支えられている。
アドベンチャービレッジは、こうした環境を日本にも作ろうという活動だ。VCなどの支援者同士がつながり、支援のバトンをつなぐことで、長い期間の支援も可能にする。出井氏は「皆が一緒に“子ども”を育てる精神で、挑戦者がどんどん湧き出る社会を作りたい。日本にはその力がある」と語る。
世界中の“同志”と連携
【得意分野】
例えば、ゼロから1を生む支援が得意なVCがスタートアップを支援した後、次の支援を規模拡大が得意なVCに託せば、より大きく育てられる。海外市場を狙うスタートアップには海外VCを紹介。規制がネックとなっている場合は自治体内のスタートアップ支援組織と連携する可能性もある。
出井氏が代表理事を務める一般社団法人「アジア・イノベーターズ・イニシアティブ(AII)」が、アドベンチャービレッジの運営主体となる。クオンタムリープは、シンクタンク機能や海外との連携支援を担う。
【個人参加も】
国内では、同活動のパートナーに経済産業省の支援活動「J―スタートアップ」、大企業の変革を目指す若手有志を中心とした組織「ONE JAPAN」、アクセンチュアなどが名乗りを上げた。海外ではフランスとの連携を進めており、順次、世界各国とのネットワークを広げる。
クオンタムリープの中村智広社長は「大企業に属する人や、技術やアイデアを持つ個人も参加できる組織にしていく」と話す。支援は投資だけに限らない。ホームページや参加交流型サイト(SNS)の「フェイスブック」を通じ、広くメンバーを募集する。
出井氏動かす“3つの敗戦”
出井氏はアドベンチャービレッジの構想をソニー時代から温めてきた。「今、日本は“冬”。冬から春にするには、熱い気持ちを持つベンチャーの力が必要だ。みんなで一緒に社会運動を起こしていきたい」と話す。
出井氏にとって少年時代の第2次世界大戦の敗戦と、ベンチャーだったソニーの急成長が、強烈な原体験になっている。小学生の時に中国・大連で迎えた敗戦は厳しい冬の経験だった。「約2年間、日本に帰れず、難民だった」。入社後のソニーはトランジスタなどで成功し、日本経済も春から夏になった。「当時の日本はベンチャーだらけだった」と振り返る。
だが、1985年のプラザ合意後の円高とバブル崩壊によって日本は再び“敗戦”を経験。そしてIT革命の波に乗れず、IT敗戦の道をたどった。ソニー社長だった当時の出井氏はIT革命のインパクトに危機感を抱いたが、企業変革は間に合わず、「非常に悔しい」思いをした三つ目の敗戦だった。
その後、日本に春は訪れていない。今度こそ、第5世代通信(5G)などの新しい技術と、アジア経済の発展という二つの波を逃すわけにはいかない。
日本が第2次世界大戦後のようにベンチャーだらけになることは難しいが、企業の中で挑戦したり、自分の持つスキルで挑戦する人を支援することはできる。起業家などが持つ熱気を広げることは、そのきっかけになる。
新陳代謝が進みにくい日本
日本は企業の新陳代謝が進みにくく、開業率は米英仏に比べ半分程度に留まる。また起業家・起業予定者の数を示す国際的な起業活動指数も主要国の中で著しく低い。しかも、業種別で最も開業率が低いのは、日本のお家芸である製造業だ。この状況を打開しようと、政府や自治体、大企業、VCなどが起業家支援に力を入れる。
今は開業率の高いフランスも「昔は大企業への就職か、米国で働くことが良いキャリアとされていた」と、仏VCのワンラグタイム最高経営責任者(CEO)のステファニー・ホスピタル氏は話す。10年以上かけて教育から改革し、今に至る。20年には新規雇用の10%をスタートアップが担うという。日本はまだ始まったばかりだ。
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