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QxL Talk 「突入5G時代!激変する社会にどう対応するか」~速度100倍・データ容量1000倍の未来図~
2020年より本格にサービスが開始される第5世代移動通信システム「5G」。現在の4Gと比べ、速度は100倍、データ容量は1000倍にもなり、社会は激変すると言われています。さまざまな分野から期待が集まっている5G、本格サービスが始まると実際はどのようなことが可能になるのか?インフラとソリューションの両面から考えていきます。
2019年8月27日開催「Club100」第140回定例会より
<ゲスト>
中村 武宏 様(株式会社NTTドコモ 執行役員 5G イノベーション推進室 室長)
島田 啓一郎 様(ソニー株式会社 主席技監 R&Dセンター 次世代技術連携担当)
5Gは新しい価値だけでなく、社会課題解決も目指せる
2017年4月、新たに「beyond宣言」を策定したNTTドコモ。来たる5G時代を見据え、今までにない挑戦を続け、お客さまの期待を超える驚きと感動の提供と、ビジネスパートナーとの新しい価値の協創により豊かな未来の実現を目指してきました。「5G時代、新しい価値創造をひとつの会社だけで作る時代ではない。オープンイノベーションが主流となっている今、いろんなパートナーとよりよいサービスを早く作り上げ、社会課題解決までも目指す、今はそういう商流になっているのです」と語るのは、株式会社NTTドコモ執行役員であり5Gイノベーション推進室室長の中村武宏氏です。中村氏は、ガラケーの時代から通信インフラの研究開発および標準化に従事してきました。3GPP(3rd Generation Partnership Project)にて、5Gの国際標準化仕様も決まり、日本国内で5Gの周波数の割り当ても終了し、いよいよ本格的にサービスが始まる5G。「5Gは社会課題解決の期待が非常に高いのですが、通信の基盤をどのように広めていくかが課題」と中村氏は語ります。
速度も容量も飛躍的に向上する5G
「高速・大容量」「低遅延」「多数端末との接続」の特長を持つ5G。周波数は、28GHz帯、4.2GHz帯、3.7GHz帯の3バンドになり、今のスマートフォンの最新版と比較すると、通信速度で1Gbpsから20Gbpsと、20倍の高速大容量、通信の遅延が10msから1msと、10分の1の低遅延に、接続するデバイス数が1平方キロメートルあたり10万デバイスから100万デバイスと、10倍の同時多接続が可能となり、その性能は飛躍的に向上します。2、3年前では、2020年に5Gの商用サービスを開始しようと考えていたのは日本と韓国ぐらいだけでしたが、現在はアメリカ、中国、さらにヨーロッパも加わり、国際的にも本格的に5Gを導入している状況です。NTTドコモでは、2019年9月20日から開催されるラグビーW杯を機に5Gのプレサービスを開始し、2020年の本格始動に向け、スタジアムだけでなく、パブリックビューイングなどでスポーツを多角的に楽しめる様々なサービスを展開していくといいます。その一方で、2020年に5Gサービスがいきなり日本全国で展開することは、コスト、時間の両面で難しいと中村氏はいいます。その要因は周波数で、28GHzのように高い周波数は遠くまであまり飛ばないのでスタジアムなどユーザの多いエリアに、低い方の周波数は遠くまで飛ぶのでゴルフ場など広いエリアを使う場所に提供するなど“適材適所”に周波数を使用することがポイントだといいます。
医療、放送など、幅広い業種での活用が期待される5G
では、5Gは実際にどのように活用されるのでしょうか?NTTドコモでは、幅広いパートナーと共に新たな利用シーン創出に向けた取り組みを拡大するため「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」提供し、2,800社(2019年6月末)を超えるパートナーと共に、5Gの実証実験、デモを世界に先駆けて数多く実施しています。中でも情報共有と他業種間のマッチングに力を入れているそうで「業界の壁は意外と高い。ニーズとシーズをマッチングさせて5Gを進化させていくことが非常に重要である」と中村氏は言います。今回は、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」の中から事例の一部を紹介しました。最初に紹介されたのが、東京女子医大が開発した「モバイルSCOT」です。様々な医療機器から出てくる情報を統合しネットワーク化したもので、手術の戦略を練るなど治療に生かすソリューションとして期待されています。例えば、手術室の患者の映像を5Gの超高速・低遅延通信を使って遠隔地もしくは移動中の専門医師に共有し、手術の戦略を現場の執刀医師に指示したり、災害や事故現場など患者の輸送が困難な場合に現場に移動手術車両を執刀医とともに派遣し、5G無線回線を介して病院内の専門医師が現場の患者の画像を見ながら現場での具体的な治療をサポートするなど、いつでもどこでも高い水準の治療が受けられるようになります。
放送の分野でも5Gの活用は大いに期待され、株式会社フジテレビジョンと共同で、サッカーやゴルフ、レーシングなど広いエリアを使うスポーツでの新たな楽しみ方を体験可能なシステムを開発しました。AR技術を活用し、好きな場所にゴルフコース、サーキットやサッカーフィールドの全体を視聴可能とし、選手の顔などミクロに見ることも可能になります。例えばスマートフォンやタブレットを通して自宅のテーブル上にサーキット全景を再現することも可能になります。好きな方向から好きな距離感で試合を見ることや、チームの情報、選手のコンディションなど多角的な視点で試合を楽しむことができる新しいスポーツ観戦体験を提供できるとして注目を集めています。もうひとつエンターテイメント分野での活用事例として、5Gの低遅延性を活かした多地点での遠隔合奏の技術も紹介されました。現在の4Gでは通信に比較的に長い遅延が生じるため、異なる場所にいる人たちと通信を使ったリアルタイムでの合奏はできないのですが、5Gは低遅延であり、データ容量が大きいためリアルタイム合奏が可能になります。2018年12月に東京ビッグサイト、東京スカイツリータウン、福井県立恐竜博物館の3地点間で遠隔合奏のデモンストレーションを見事成功させ、音楽の楽しみ方の新しい可能性を見出しました。この他にも、建設機械、車、映像撮影、農薬散布の遠隔操作など、様々な業種・分野での取り組みが行われており、5Gへの期待度がますます大きくなっているのです。
5Gが抱える課題と現実
5Gのビジネス化に向け期待が高まる一方、誤解が多くなってきているのも事実です。5Gを推進する一方、現実的な課題にも目を向けなければならないと中村氏は警鐘を鳴らします。最初の誤解は、5G導入当初からどこでも使えると思われていること。実際は、4Gの時のように、一部のエリアから導入し、数年かけて拡大していくことを計画しており、NTTドコモではラグビーW杯より5Gのプレサービスを展開し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックには本格的にサービスを開始。将来的には5Gはどこでも使えるようにしたいと中村氏は語りました。また技術的な誤解として、あらゆる場所で10Gbpsの伝送速度と1msの低遅延サービスが提供されると思われていることをあげました。実際は最初の段階では、数Gbpsの伝送速度と数msから数十msの遅延が生じてしまいますが、これも将来的には解決するであろうと予測しています。そして最後の誤解は、あらゆるユースケースに対応するだろうというものです。特に地方創生などの社会課題解決に関連するものへのニーズが高いので、そういったものこそビジネスモデル化が難しいという現実があります。サービスローンチ後も、様々な用途・要望が増えていく5G。中村氏は、NTTドコモもパートナー会社とともに、市場のニーズに柔軟に応えていきたいと、今後の展望を語りました。
暮らしの文化を創る5Gとは
重要な社会インフラとして発展する5G。果たして、私たちの暮らしにどのような変化をもたらすのでしょうか?ソニー株式会社主席技監R&Dセンター次世代技術連携担当の島田啓一郎氏は、時代とニーズの変化を歴史的観点で紐解いていきました。1950〜1960年代、当時の人々にとって最も高い価値は、「事務・学習を便利にしたい」というものでした。電卓で計算ができる、コピー機で文書を複写できるなど、利便性を実現するために技術が発展してきたのです。次に1970〜1990年代は、テレビやオーディオ、ビデオカメラなどの登場によりコンテンツ産業が発達し、「映像・音楽で感動を増やしたい」というニーズが大きな産業となりました。そして1990年代以降、携帯電話やスマートフォンの登場により、「人と人のつながりや共感を増やしたい」という価値が生まれます。はじめは業務効率の向上など“利便性”を追求していましたが、次第に“感動”や“つながり”、“共感”といったように新たな価値がどんどんと増えていきました。新しい技術が生まれると、用途が増えるだけでなく、これまでになかった価値観を創造するのです。これを通信の分野で見ていくと、最初は防衛・特殊産業の重要な通信手段だった無線通信は、電報・電話などの市民の重要連絡となり、SNSなど共感目的の連絡へと発展していきます。そして技術の進化は費用低下を導きます。軍需用途で使われていた1905年ごろは、数億円かかっていた通信料も、現在は1万分の1円とかなりのコストダウンになりました。このコストダウンこそが、新しい用途の創造を誘発すると島田氏は言います。
技術で「制約」を減らせると、暮らしが変わる
一方、「制約」の観点での変化はどのようなものがあるのでしょうか?島田氏は「制約とは5つカテゴリーの中に11の制約がある」といい、まず場所、空間、時刻、時間など4つの「物理的制約」という視点があります。映像の分野で例えると、演劇や映画など、決められた場所や時刻に合わせないと見たいものが見られないという制約があったものが、テレビの登場で場所の制約が減り、ビデオの登場でいつでも好きな時に見られるようになりました。このように、物理的制約の軽減は、技術の発展と密接に繋がっており、新しい市場を開拓していたのです。このほかにも規則・慣習や社会基盤などの「社会的規制」、準備・手間、安心・安全の「精神的制約」、嗜好、質の「内容的制約」、そしてコスト・経費などの「経済的制約」とありますが、どれも技術革新で制約の解放・緩和が可能になると島田氏は言います。そして、5Gがもたらす「制約の解放」は、5つの分野においてもきわめて広範囲で、かなり大きな期待ができるのです。
5Gで進化するエンタテインメント
では、5Gはエンタテインメントをどのように発展するのでしょうか?島田氏は「“臨場感”の拡大だけでなく、“アクセス感”の向上、“参加感”の演出が重要なポイントになる」と言います。例えばパブリックビューイングで、カフェの壁一面で8Kの超高精細な画面でスポーツ中継できるとします。まるでスタジアムにいるようか感覚を得ることができ、スタジアムさながらに試合を楽しめるようになります。そして、高精細な画像は自分の好きな選手がどこのポジションを守っているのかがわかるだけでなく、その選手の動きを追いかけることや、スタジアムの観客と双方で参加感を共有できるなど、技術によって「新しい価値」を創造できるのです。ソニーでは、例えば映像の分野では、ユーザがより魅力的なコンテンツを楽しめるように、クリエイター視点でのスポーツ中継や、映像制作ができるよう技術的なサポートができないか、さらにはモビリティの分野で実験を行っており、5G時代の新しい価値創造づくりに取り組んでいます。
5Gが社会とビジネスモデルを転換
現在、IoTやビッグデータ、人工知能、ロボットなどの分野で技術革新が進み、第4次産業革命が起こっているとも言われています。過去では機械が仕事をどう変えたか、情報の力で社会がどう変わっていったのかが中心でしたが、今回の特徴は実情報のセンシングから、機械の操作、そしてアリゴリズムの生成と全てが自動化されていることです。これまで世界中の何十億人の人がやっていたことを、5Gを使えばすべて自動化できるのです。「その分、新しい価値が生まれたり、人と人との新たなコミュニケーション、そしておもてなしなど、新たな仕事はたくさん生まれてくるだろう」と島田氏は予想します。5Gによる技術開発により、2030年には制約は今よりかなり減るであろうと予測されます。その中で大きく変わると予想されるのが自動運転をはじめとした「移動・運搬」分野、映像や音楽のコンテンツから農作物や料理も含む「つくる」の分野、そしてエンタテインメント、観光、スポーツなどの「遊ぶ・楽しむ」分野です。これらは非常に変化させやすい分野で、すべて5Gであることが大前提となっています。最後に島田氏は「5Gは通信産業だけでなく、すべての産業や暮らしを大きく変えていきます。それは社会をどのようにでも変えていけるチャンスでもあるのです。5Gを生かして、みんなが幸せになれるように変えていくことが、私たち産業人の使命だと思う」と語り、会を締めくくりました。
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